中元作  李商隠 11


中元作  李商隠 11 
お盆に会う約束をしていたのに来てくれなかった。この思いどうやって伝えるの。青い鳥はどうしたの。
七言律詩

中元作
絳節諷瑤空国來、中元朝拜上清回。
羊権須得金條脱、温僑終虚玉鏡臺。
曾省驚眠聞雨過、不知迷路爲花開。
有戎未抵瀛洲遠、青雀如何鴆鳥媒。


○韻 來、回。臺。開。媒。

中元の祭日に会う約束をしていた女人と、何かの所要の為に会えなかった事を詠う。

行列のえび茶色の旗じるし吹き上がる風に舞い、国中がからになったかと思われるほど、女道士や令娘たちが参詣にやって来る。今日はお盆の祭日。女たちは朝早く、やしろの至上天を礼拝にきて、帰ってゆく。

東晋時代の羊権の家に天女萼緑華が舞いおり、黄色の腕環を贈ったように、この日にこそ、あなたがあらわれて心の籠った贈物をくれるかも知れない。だが、たとえ会えてもあなたはまた天女のように帰ってゆくだろう。晋の人温?を真似て結納を納めようとしても、玉の鏡の話のように結局役には立たず、所詮、私達は 結ばれずむなしい思いをするだろう。

以前、うたたねから醒めて雨の音を聞く、楚の懐王と巫山の神女のような逢瀬が私たちにはあったのだが、「桃花源」は一度行けたのに二度とは行きつけないのは何故だろう。

そこへの途上、路傍に咲き乱れる花の深さゆえに行く道を迷ってしまう住まい、すむ世界を異にするとはいえ、あなたの住む「有?」というところは世界の外の海中にあるという「瀛洲」のように遠いわけではない。だから、「瀛洲」へでも手紙を持って行ってくれるという恋の使いの青い烏が、むかし屈原の頼みで「有?」とのなかだちをした鳥より、うまく恋の思いを伝えてくれるかどうかが問題なのだ。

中元に作る
絳節こうせつ諷? 国を空しくして来り、中元に朝拝して上清より回る。
羊権 須らく得べし 金の条脱を、温? 終に虚なし 玉の鏡台。
曾て省って 眠を驚かして雨の過るを聞きぬ、知らず 路に迷いしは 花の開くが 為なるを。
有?ゆうしゅう 未だ瀛洲えいしゅうの遠きに抵いたらず、青雀は如何に 鴆鳥ちんちょうの媒ばいに

中元作
○中元 陰暦七月十五日、仏教では仏と僧侶に供養して父母の慈愛に感謝する孟蘭盆の日である。道教では、この日、地官(神仙の職)が降下して人の善悪を審判すると考えられ、道士達は夜まで経文を読誦する。餓鬼囚徒もそれで解脱できるとする。唐代からすでに仏道二数の混淆した祭りがこの日に行われていた。この詩は中元の祭日に会う約束をしていた女人と、何かの所要の為に会えなかった事を怨む。

絳節諷?空国來、中元朝拜上清回。
行列のえび茶色の旗じるし吹き上がる風に舞い、国中がからになったかと思われるほど、女道士や令娘たちが参詣にやって来る。今日はお盆の祭日。女たちは朝早く、やしろの至上天を礼拝にきて、帰ってゆく。
○絳節 えび茶色の旗じるし。梁の郡陵王粛綸(未詳−551)の魯山神文に「絳節竿を陳ね、満堂に繁く会う。」と。○諷? ふうよう ・諷 暗誦する。ひにくをいう。・? 吹き上がる風。ふき動かす。○上清 道教の至上神のいるところ。

羊権須得金條脱、温?終虚玉鏡臺。
東晋時代の羊権の家に天女萼緑華が舞いおり、黄色の腕環を贈ったように、この日にこそ、あなたがあらわれて心の籠った贈物をくれるかも知れない。だが、たとえ会えてもあなたはまた天女のように帰ってゆくだろう。晋の人温?を真似て結納を納めようとしても、玉の鏡の話のように結局役には立たず、所詮、私達は 結ばれずむなしい思いをするだろう。
○羊権 東晋時代の泰山南城の人。字は道学。簡文帝司馬c(321−372)に仕えて黄門郎となった。孫の羊欣(370−442)の伝が「宋書」六十二にある。梁の陶弘景の「実話」によると、仙女萼緑華は升平3年11月10日の夜、羊権の家に下ったが、其の時、詩一篇、石綿で織った手巾一枚、金と玉の跳脱各々一箇を羊権に贈ったという。○萼緑華 (がくりょくか)萼緑華伝説、 南山の仙女の名。青い衣を着て容色絶麗。晋の升平三年(359年)の冬の夜、羊権の家に降下し、仙薬を権にあたえておいて消え去った。この話は梁の陶弘貴の「真誥」にある逸話である。李商隠 6 重過聖女詞
白石巌扉碧辞滋、上清淪謫得歸遅。
一春夢雨常飄瓦、盡日靈風不満旗。
萼緑華來無定所、杜蘭香去未移時。
玉郎会此通仙籍、憶向天階問紫芝。

○条脱 跳脱に同じ。腕環のこと。○温? 晋の将軍。字は太真(288−329)。元帝司馬睿(277−322)、
明帝司馬昭(299−325)二代に仕え、劉聡の勢力の鎮圧、丹陽の王敦、江州の蘇峻の反乱平定に功あった。劉宋の劉義慶の「世説新語」仮譎篇に、温?の従姑の劉氏が乱にあって一族離散し、娘が一人残ったが、その婿の世話を温?に依頼した時の話がのっている。その時、妻を失っていた温?は、密かに自分が嫁りたく思い、「わたし程度の人物ならどうか。」と言った。従姑は勿論大喜びである。数日後、温橋は、婿が見つかったと言って、結納の品として、昔、劉?(270−317)の副官として江左に劉聡を討った時の戦利品である硬玉の鏡台を与えた。婚礼の式上花嫁は、侍児が支えて花嫁の顔を隠す扇を手でひらいて、掌をうって笑いながら、「やっぱり私の思った通り、鏡は老奴のものだったのね。」と言ったという。

曾省驚眠聞雨過、不知迷路爲花開。
以前、うたたねから醒めて雨の音を聞く、楚の懐王と巫山の神女のような逢瀬が私たちにはあったのだが、「桃花源」は一度行けたのに二度とは行きつけないのは何故だろう。
○曾省 何何したことがある。省はかえりみる。記憶の義。しかし二字で以前に何何したことがあるの意味となる。詩語として曾経の二字に近い用法をもつ。○不知 その事(不知以下の文)の理由をいぶかることば。○迷路 この言葉は、「陶淵明」桃花源記の故事をふまえている。

有?未抵瀛洲遠、青雀如何鴆鳥媒。
そこへの途上、路傍に咲き乱れる花の深さゆえに行く道を迷ってしまう住まい、すむ世界を異にするとはいえ、あなたの住む「有?」というところは世界の外の海中にあるという「瀛洲」のように遠いわけではない。だから、「瀛洲」へでも手紙を持って行ってくれるという恋の使いの青い烏が、むかし屈原の頼みで「有?」とのなかだちをした鳥より、うまく恋の思いを伝えてくれるかどうかが問題なのだ。
○有? 伝説的に伝えられる太古の国名。「呂氏春秋」に「有?氏に二人の佚うつくしき女有り、之に九成台を為る。飲食必ず鼓を以てす。」と見える。国名を借りて、心に思う美女の住まいをいう。○瀛洲 現実世界の一つ外側にある海に聾えるという三仙山(道教神仙説にいう、より具体的な形、東方の海上に存在する三神山(瀛州、方壷、蓬莱)ならびに西方極遠の地に存在する西王母の国を現在する理想国とした。)○青雀 恋の使者(青鳥 仙界とのなかだちをするという青い鳥、恋の使者である。この島に棲む青い鳥が使者である。仙女西王母の使いの鳥。杜甫「麗人行」にもある。お誘いの手紙を届けるものを指す。)○鴆鳥 悪鳥の名。毒あって人を殺すゆえ、謹言者の喩えとなる。屈原(紀元前339−278)の離騒に「瑤台の偃蹇たるを望み、有?の佚女を見る。吾れ鴆をして媒を為さしむ。媒は余に告ぐるに好からざるを以てす。」とあるのをふまえる。
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